腰痛治療最前線―TMSジャパン公式サイト-図書室



補完・代替医療総覧(9)

連載9


―補完・代替医療総覧ー
患者の問いに答えるために


長谷川 淳史 (TMSジャパン代表)


全人的アプローチを掲げる補完・代替医療の世界的潮流と未来、そこに垣間見える光と影を探る。


クワッカリーの費用対効果

クワッカリーの興味は、利用者の健康よりもむしろ経済的利益を上げることにある。中には自分がクワッカリーだと自覚していない者もいるが、いずれにしろ利益最優先であることに変わりはない。だからこそ、有効性や安全性の検証をおざなりにしてまでも、あらゆるメディアを使った虚偽誇大広告によって、高価な健康関連商品の購入意欲を刺激するのだ。

そもそも、医薬品メーカーでも医療機器メーカーでもない業者が有効性や安全性の検証に時間と費用を割くことはない。たとえ有効性や安全性が証明できたとしても、薬事法に抵触するために証明された効能効果を標榜することはできない。ならば、有効性や安全性の検証を犠牲にしてでも宣伝広告費に多額の費用を投入し、手っ取り早く利益を上げようとするのはごく自然な成り行きである。

では、クワッカリーによる被害額は一体どれくらいに上るのだろうか。それを正確に把握するのは不可能である。しかし2003年8月には健康増進法が、2005年4月には薬事法がそれぞれ改正され、虚偽誇大広告が厳しく規制されたことでこれまでの警告や回収命令では済まずに摘発される業者が増えてきた。こうした報道からクワッカリーによる被害額の一部を窺い知ることができる(表1参照

表1.過去3年間に報道された薬事法違反事件

摘発時期 内  容 業  種 商品名 売上額
2005年1月 「どんなバストも1ヶ月で2サイズアップ」「短期間に憧れのDカップに」と豊胸効果をうたって錠剤を販売し、薬事法違反容疑で逮捕 健康食品・化粧品販売会社 ニューシーバスト 年間総売上約3億円
2005年1月 「膝、肩、腰などの関節で悩んでいた多くの方が愛用」などと効能をうたった広告を新聞に掲載して錠剤を販売し、薬事法違反容疑で逮捕 健康食品販売会社 ニーキュア 年間総売上約17億円
2005年10月 書籍『即効性アガリスクで末期がん消滅!』『徹底検証!末期がんに一番効くアガリスクは何か』の中で「これを飲んでがんを治した」「がんが消えた」といった患者の体験談を捏造した上に、「確実にがんを消滅させる」などとうたって健康食品を販売し、薬事法違反容疑で逮捕 健康食品販売会社・出版社・監修者・著者 即効アガリスクS・水溶性メシマコブ 4年間の総売上約39億円
2005年11月 強壮作用をうたった中国産の健康食品から性的治療薬バイアグラと似た医薬品成分が検出されたとして、薬事法違反で販売中止と回収を支持 大手薬局チェーン ドキン 年間総売上約3億円
2006年3月 「血液がサラサラになる」「がんに効果がある」「高血圧に効くことが医学的に証明されている」などと効能をうたって健康食品を販売し、薬事法違反容疑で逮捕 訪問販売会社 花びらたけDS 年間総売上約7億円
2006年5月 書籍やパンフレットで「末期がんが消える」「難病が治る」などと効能をうたって健康食品を販売し、薬事法違反容疑で逮捕 健康食品販売会社 シーピーエルレドックスA 5年間の総売上約15億円
2006年7月 「毎日の飲用で血液浄化」「がんの予防と対処に効果的」などと雑誌に広告を乗せて健康食品を販売し、薬事法違反容疑で逮捕 健康食品販売会社 甦液(よみがえりえき) 6年間の総売上約1億円
2007年1月 新聞広告や販売会で「糖尿病や神経痛に効く」などとうたって足裏マッサージ器を販売し、薬事法違反容疑で逮捕 医療機器販売会社 不明 年間総売上約1億2000万円
2007年2月 ホームページやチラシで「血糖値を抑えるなどの薬効がある」とうたってカイコの粉末入り錠剤を販売し、薬事法違反容疑で逮捕 健康食品販売会社 ボスリン 7年間の総売上約15億2000万円
2007年3月 皮膚に光線を当て脱毛する医療機器「光脱毛機」を国の認可を受けずに販売し、薬事法違反容疑で逮捕 美容機器販売会社 コスモライトレボリューション 年間総売上約20億円
2007年4月 新聞広告で「関節の軟骨組織に保水性・弾力性を与える」「ヒザ、肩、腰、悩み解消」などとうたって健康食品を販売し、薬事法違反で逮捕 健康食品販売会社 鮫軟骨伝説 2年半の総売上約2億3000万円
2007年6月 セミナーやインターネットで「ヘルニアの痛みが消える」「活性酸素を80%消去し、DNAの損傷を防ぐ」などとうたってパパイアを原料とした未承認医薬品を販売し、薬事法違反容疑で逮捕 健康食品販売会社 パパイアセラピPS-501 年間総売上約1億円


もちろんこれらは氷山の一角でしかないが、クワッカリーにかかる費用はけっして安いとはいえない。支払った費用に見合うだけの効果が得られるならまだ救いもあるだろう。ところが、健康被害という直接的問題、治るチャンスを失うという間接的問題、金銭や信頼を失うという心理社会的問題が潜んでいることを考えれば、買い手危険負担(caveat emptor:悪い商品を買ってもその責任は売り手ではなく買い手にある)などと悠長なことはいっていられない。自分自身や家族の健康を守るためには、クワッカリーを見抜く能力を養うメディアリテラシー教育、もしくは健康リテラシー教育が必要ではないだろうか。

ただし、「そもそもクワッカリーはエビデンスとは無縁の宗教である。信じる者は救われ、信じない者は救われないのだから、宗教以外の何物でもない。しかも宗教法人のような優遇措置がないにもかかわらず、製作費や人件費、広告宣伝費をかけて商品やサービスを提供しているわけで、安心感を得た見返りにお布施を差し出すのは当然だ」という考え方もある。

これはもっともな意見だ。たしかに医療の原型は、シャーマン、呪術医、魔法医、メディシンマン、ウイッチドクター、巫医(ふい)、ヴードゥー僧、カリャワヤ、ユタたちによる原始宗教にある。戒名に数十万円も支払ったり、結婚式や葬式に数百万円もかけたりしている現代社会からみれば、クワッカリーという宗教にお布施を差し出すのは当たり前なのかもしれない。

しかし忘れてならないのは、クワッカリーに入信するのは健康な信者ばかりではなく、心身を病んでいる信者や、死の淵にあって藁をもすがる思いでクワッカリーに望みを託す信者もいるという点だ。有効性や安全性が証明されていない(証明するつもりもない)のであれば、こうした弱者からのお布施はできるだけ安くしていただきたいものである。

いずれにしても、購入意欲を刺激するキャッチコピーや宣伝文句に惑わされることなく、メリットとデメリットを慎重に考慮したうえで、各自の責任で入信するかどうかを決めるべきだろう。


参考文献&ウェヴサイト

1) 健康情報の読み方
2) 辞書の中の単語たち
3) 米国医師会編『アメリカ医師会がガイドする代替療法の医学的証拠』泉書房,2000.
4) National Council Against Health Fraud.
5) Quack Watch.
6) Health Watch.
7) Moseley JB.et al,A controlled Trial of Arthroscopic Surgery for Osteoarthritis of the Knee,N Engl J Med,347,p81-88,2002.
8) 2005 American Heart Association Guidelines for Cardiopulmonary Resuscitation and Emergency Cardiovascular Care.
9) FDA Consumer,Quackery Targets Teens,1990.
10) 小内亨『危ない健康食品&民間療法の見分け方』フットワーク出版,2000.
11) 小内亨『お医者さんも戸惑う健康情報を見抜く』日経BP社,2004
12) 厚生労働省,無承認無許可医薬品の指導取締りについて,2004.
13) アンドルー・ワイル『人はなぜ治るのか』日本教文社,1993.
14) 小川鼎三訳『図説・医学の歴史』学習研究社,1980.
15) 笠原敏雄編『偽薬効果』春秋社,2002.
16) Beecher HK,The Powerful placebo,JAMA,159,p1602-1606,1955.
17) Roberts AH et al,The Power of Nonspecific Effects in Healing: Implications for Psychosocial and Biological Treatments,Clinical Psychology Review,13,p375-391,1993.
18) EBMに役立つインターネット.
19) 信州大学医学部医療情報部EBM.
20) 国立国会図書館:医療機器産業について調べるには.
21) 治験ナビ.
22) 国立健康・栄養研究所.
23) NCAHF Position Paper on Multilevel Marketing of Health Products.
24) The Mirage of Multilevel Marketing.
25) The Skeptic's Dictionary Japanese Home Page.
26) 国民生活センター.
27) 厚生労働省:健機能食品・健康食品関連情報.
28) 松永和紀『メディア・バイアス』光文社,2007.
29) メディカル二条河原


代替医療通信, 第12号, 2007.

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