腰痛治療最前線―TMSジャパン公式サイト-図書室



「腰痛治療の革命」理論



今や国民病といえるほど急増しているのが腰痛です。しかし、腰痛の真の原因はいま だに不明で、有効な治療法も確立されていないのが現実。そんな中、革命的な治療法があらわれました。「TMS理論」という腰痛理論にもとづくもので、薬も治療器具も要らず、指一本触れずに治してしまうというのです。


急増する腰痛患者

これだけ医学が進歩し、治らない病気が治るようになっているのに、ナゾなのが腰痛などの筋骨格系疾患です。

厚生労働省の調査によると、日本人がもっとも多く訴える症状の第一位は腰痛であり、第二位は肩こり、第三位は関節痛。胃・十二指腸潰瘍などの胃腸疾患が減少している中で、逆にこうした筋骨格系疾患は、ここ数年で二〇%も増加し、人口増加率の十七倍に達する勢いといいます。

そこで、病院で診てもらったり、それでもダメだからと鍼灸、マッサージ、カイロプラクティックに通ったりと、いろいろな治療を受けてもいっこうによくならず、悩み、苦しんでいる人は多いでしょう。


「何とか治る手だてはないか」と、ワラをもすがる思いで腰痛に関する本を開いても、「人類は類人猿からヒトに進化する過程で直立二足歩行を選択した。腰痛の根本原因はそこにあるのだから、人類の宿命である」などと書いてあって、「仕方ないのか」と諦めるほかはないのです。

ところが、「腰痛は人類の宿命などとする理屈はとんでもない誤り」と語るのは、日本における「TMS理論」の第一人者で、『腰痛は〈怒り〉である』(春秋社)の著者、長谷川淳史氏です。

「たしかに二本足で歩いていれば、重い上半身を支えているので腰に負担がかかるのは事実でしょうが、人類が直立歩行するようになってから三百五十万年もたっています。適応するには十分すぎる時間です。それにこの宿命説では、ここ数十年で腰痛患者が急増していることの説明がつきません。今ごろになって急に、二足歩行のムリがたたってきたとでもいうのでしょうか」

長谷川氏は、腰痛をはじめ筋骨格系疾患が増え続ける理由を、次のように分析しています。

第一に、悪性腫瘍や感染症などと違って命に直接かかわる病気ではないため、本格的な研究が行われにくいこと。

第二に、その結果、腰痛の本当の原因も解明されないままできたこと。

第三に、原因がわからなければ効果的な治療法も確立されておらず、第四に、筋骨格系疾患は慢性化したり再発を繰り返すため、増加という形で数字にあらわれてくること。

そして第五に、「直立二足歩行する人類の宿命」説にみられるような誤った理論がはびこっていること。

老化現象、筋力低下、不良姿勢が原因という説も誤りであり、重いものを持ってはいけない、腰をそらせてはいけない、柔らかいマットレスに寝てはいけない、というのも同じ。こうした誤った情報が「現代の呪い」となって、腰痛患者をますます増やす結果となっている──と長谷川氏は指摘します。

そこに登場したのが、TMS理論にもとづく画期的な治療プログラムです。一九八四年にニューヨーク大学医学部教授のジョン・E・サーノ博士が発表したもので、この治療プログラムは、腰痛だけでなく肩こり、関節痛、神経痛といった筋骨格系疾患に有効であるばかりか、心身症といわれる広範囲の病態にも役立つ可能性があると評価が高まっているのです。


緊張性筋炎症候群

TMSとは、「Tension Myositis Syndrome」の頭文字からとった略称で、日本語に訳すと「緊張性筋炎症候群」となります。ということはつまり、腰痛などの痛みは骨や軟骨から生じているのではなく、筋肉から生じているというわけなのです。

「ただし、筋炎といっても筋肉に炎症があるという意味ではなく、筋肉内に何らかの変化があるという意味です。この理論の開発者であるサーノ博士は、TMSの定義を『痛みを伴う筋肉の生理的変化』としています」

と語る長谷川氏は、次のようにも話しています。

「またTMSは、これまで単独の病気によって生じると考えられていた筋骨格系のさまざまな症状を、一つの症候群としてまとめています。たとえば、肩こりと呼ばれる首や肩、背中の痛みをはじめ、腰痛、臀部痛、上肢や下肢の痛みやしびれ、四十肩、五十肩と呼ばれる肩関節の痛み、ヒジ、手首、股関節、ヒザ、足首の痛みまで、これらはすべて共通した原因による一つの症候群だと考えています」


では、共通する原因とは何か──。

「痛みの直接的な原因は、血管が収縮することによって起こる患部の虚血状態だと考えられます。つまり、自律神経系を介して血管が収縮し、患部の血液循環が悪くなって酸素欠乏を起こすことから痛みが生じるのです。血管収縮に伴って血流量が減少すると、筋肉内に発痛物質でもある乳酸が蓄積して筋肉痛を引き起こしますし、血流量の減少によって酸素欠乏がより深刻になると、筋肉がケイレンしてきます。さらに、酸素欠乏は神経障害を引き起こし、さまざまな程度の知覚異常や筋力低下を招いてしまいます」

ならば、どうして自律神経系が血管を収縮させるのでしょうか。それは「〈怒り〉である」と長谷川氏はいいます。

「サーノ博士は、腰痛など筋骨格系疾患の患者を詳しく診察しているうちに、彼らの大部分が、心理的緊張によって生じる病態を経験していたことに気づきました。そこで、もしかすると患者が訴えている痛みの原因も、心の緊張にあるのではないかと考えたわけです。緊張性筋炎症候群(TMS)の『緊張性』というのも、この心の緊張からとられたものです」

そして、サーノ博士が至った結論は、TMSとはストレスによるものだということでした。しかも、ただのストレスではありません。怒りの抑圧というストレスであり、その抑圧が、腰痛をはじめとする筋骨格系疾患を招いているのだといいます。



ストレスと自律神経

ストレスと痛みの関係を、長谷川氏は次のように解説します。

ストレスと非常に関係があるのが自律神経です。自律神経とは、人間の意志や意識の影響をほとんど受けることなく、文字通り自律的に働いている神経系ですが、ストレスの種類や程度によってその働きに微妙な変化があらわれます。

自律神経の働きの一つに、生き残りをかけて緊急事態に対処するというものがあります。身の危険を感じると、即座に戦闘態勢モードのスイッチが入ります。交感神経が緊張して、心臓はドキドキして血圧は一気に上がり、「闘争か逃走反応」に必要な筋肉に大量の血液を送り込みます。

自律神経にはもう一つ、全身の器官の機能を自動的に調節するという重要な働きがあります。私たちがいちいち命令しなくても、心臓を動かしたり、呼吸をしたり、食べ物を消化したり、体温を一定に保ったり、交感神経と副交感神経のスイッチの入れ替えがスムーズに行われて、私たちの体の状態は常に一定に保たれています。

ところが、このように私たちの体を守ってくれている自律神経も、慢性のストレスにさらされ続けると、その働きに乱れが生じ、逆に体に災いをもたらしてしまいます。

ストレスを受けているとき、もっぱら興奮を続けるのは交感神経で、その際、副腎髄質から大量のアドレナリンとノルアドレナリンを分泌させます。これらのホルモンには、心拍数や血圧を上昇させる作用だけでなく、強力な血管収縮作用があります。

戦闘態勢モードのときは、消化吸収や排泄機能をストップさせてでも筋肉に血液を送り込めばいいので、この血管収縮作用が有効に働きます。しかし、ストレスが長引くと、いつまでも他の器官を犠牲にするわけにはいかなくなります。それでも戦闘態勢モードで血管収縮を続けていると、弊害が出てきます。これが血流不足による酸素欠乏であり、その結果、痛みを生じるのですが、とくに姿勢筋と呼ばれる首の後ろ側、肩の上部、背中や腰、臀部の筋肉などに症状があらわれやすい傾向があります。また、筋肉以外にも、神経や腱・靱帯といったところにも同じ病態が生じることがわかってきているということです。

ただし、ここでやっかいな問題があります。不思議なことに、重症のTMS患者ほど「ストレスはない」と断言する傾向にあるのです。

そこに重大な事実が隠されていることがわかりました。「重症のTMS患者には、とても強力な『防衛機制』が働いているからで、実はこれがTMSの根本原因なのです」


防衛機制とは、心の安定を保ち、精神的破局を避けるための意識的・無意識的な心の働きをいうのであり、いわば心の安全装置といえる、と長谷川氏。防衛機制にはいろんな種類がありますが、中でもTMSの発症にかかわっているのが、先にあげた「抑圧」というわけです。

不快な出来事に遭遇すれば、だれだってイヤな思いがするし、怒りを覚えるでしょう。そんな感情を押し殺し、ストレスをため込んだ毎日を送っているのが現代人です。中には、意識してそうした感情を押し殺すというより、無意識のうちにシャットアウトしているケースも多いようです。


「私たちは自分自身を見失ってしまったり、パニック状態になるのを避けるために、不快な感情を極端に毛嫌いする傾向があります。とにかく忘れよう、考えないようにしよう、無視しよう、なかったことにしようなどと、不快な感情を意識から締め出してしまいます。それもほとんど何も考えずに、自動的にそうしてしまいます。さらに悪いことには、自分がそうしたことすら忘れてしまうのです。これが抑圧の正体です」


無意識な心の働き

さらに、長谷川氏は続けます。

「私たちは、不快な感情を知らず知らずのうちに抑圧しているのですが、何かがきっかけとなってそれが意識にのぼってしまっては、パニックを起こしてしまうかもしれません。そんなことにならないように、無意識下の心は、意識の目をほかに向けさせようとします。それが痛みです。体に痛みがあると、本人の注意を完璧に体に引きつけておくことができます。これがTMSで起きていることなのです。つまり、TMSは不快な感情から注意をそらすために存在するのであり、それは、抑圧を助けるための防衛機制の一つにほかなりません」

無意識の心とは、心の痛みを味わうより、体の痛みを味わうほうがまだマシと判断しているようなのですが、それほどまでして抑圧したい感情とは何かといえば、怒りであり、激怒、憤怒、激憤だと長谷川氏は指摘します。

一九九九年の夏、アメリカの人気テレビ番組である「20/20」(ABC)でTMS理論の特別番組が放送されたとき、サーノ博士は次のように語っています。

「生活の中で生じる緊張やストレス、物事を上首尾に仕上げようとする気持ちが、自分では全く気づかない無意識の領域に内的な反応を起こすことがありますが、無意識という心は、その反応を非常に恐がるのです。私たちは実際、無意識の領域で非常に腹を立てます。激怒することもあります。程度の差はあれ、無意識の領域で怒らない人はいませんし、その結果として、それこそありとあらゆる反応が体にあらわれるのです。つまり、怒りが心の無意識部分に生じたとき何が起きるかというと、脳は体に様々な症状を発生させることによって、その怒りから本人の注意をそらし、怒りを無意識の領域から出すまい、本人に意識させまいとするのです」

また、CNNの番組でも、サーノ博士の次の言葉が紹介されています。

「痛みを生み出しているのは自分自身であり、もちろん無意識のうちにです。ストレスや怒り、恐怖に対する心の反応がそうさせます。怒りに向き合うくらいならと、体のある部分への血流を減らして、そちらへ注意を引きつけようとします。その結果、腰なり首なり足関節なり、痛みが生じることで、怒りなどの受け入れがたい感情から注意がそらされるのです」

たしかに、それが間脳(視床下部)にコントロールされた自律神経系のなせるワザとするなら、納得がいきます。

私たちの意志とは無関係に、自律的に体を守るべく働くのが自律神経。考えようによっては、私たちの体の中に存在する“もう一人の自分”が何らかの危機を察知したとき、防御反応としてのシグナルを「痛み」という形で送っているのかもしれません。

そういえば、もともと血圧が高くない人が急に高血圧に見舞われたり、アレルギーのない人が気管支ゼンソクになったり、食べすぎでもないのに胃腸の病気を引き起こしたり、といった例があり、心が引き起こす体の症状──心身症とわかってきていますが、これも、無意識下の心が自律神経を介して送ってくるシグナルなのかもしれません。

いずれにしても、心と体や自律神経系の関係はまだわからないことが多く、その解明が待たれているだけに、興味深いところです。


TMSプログラム

ところで、無意識下に抑圧された怒りが痛みを作り出しているというTMS理論は、まったく新しい治療プログラムを誕生させています。しかも、大変な効果を上げていて、アメリカでは、この治療プログラムによって三十万人以上もの腰痛患者が完治したといいますから、驚異的です。

「TMS治療プログラムは、誤った情報という『呪い』を解くことと、無意識下の心による防衛機制を解除することの二本柱から成り立っています。痛みが抑圧された怒りによるものであることをしっかり理解し、認識すれば、防衛機制は解除され、自律神経系も正常に戻って、痛みも取り除かれることになります。ただし、簡単に自覚できる怒りとは違って、TMSは無意識下に抑圧された怒りですから、心の底に隠されている怒りを探し出すことが欠かせません」

具体的な治療プログラムとしては、講義討論会やグループミーティングといったことが行われる一方、ストレス・リストを作成して怒りに気づくようにしたり、瞑想したり、TMS理論の本を読む読書療法を行ったり、自分で自分の怒りを叱りつけたり、人によっては心理療法を受けたりします。

このような患者の体に指一本触れない治療により、腰痛患者の八〇~八五%が数週間のうちに治ったといいますから、まさに腰痛治療革命といえるでしょう。

こんな例もあります。

長谷川氏のもとにある日のこと、サーノ博士が書いた『サーノ博士のヒーリング・バックペイン』の読者から、朝起きると腰が痛くて動けないという電子メールが届きました。そこで長谷川氏は、

1.痛みを怖がってはいけない、
2.少しでも動けるのなら会社を休んではいけない、
3.急いで心の中の怒りを探し出すこと、

とメールでアドバイスしました。

痛みを客観的に示す方法の一つに、考えられる最高の痛みを十点として表現するニュメリカル・スケールというのがありますが、この人の痛みは最初九点でした。ところが、メールを読んで六点に、会社に行ってからは一点にまで減点したといいます。わずか半日のうちにほとんど改善したわけですが、それができたのも怒りの存在に気づいたからであり、しかもこの人はすでに、サーノ博士の著書を読むという読書療法によって、TMS理論を理解していたからこそ、これほど速く改善したのだといいます。

そんな話を聞くとぜひとも試してみたくなりますが、この治療プログラムは、危険な器質性疾患がないことが前提となっているので、自己判断は禁物。

まず医師の正しい診察を受けるところから始めたいものです。

長谷川淳史(はせがわ・じゅんし)氏プロフィール

昭和35年生まれ。長生学園卒。北海道旭川市のガラップ治療院院長。筋骨格系疾患および慢性疼痛の治療・研究のかたわら、執筆・講演活動も行っている。

ホームページ:http://www.tms-japan.org/


Health Tribune 2001年6月号

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