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補完・代替医療総覧(3)

連載3


―補完・代替医療総覧ー
患者の問いに答えるために


長谷川 淳史 (TMSジャパン代表)


全人的アプローチを掲げる補完・代替医療の世界的潮流と未来、そこに垣間見える光と影を探る。


現代医学とCAMの区別は無意味

前回述べたように、現代医学こそが主流医学・正統医学だと信じて疑わない西洋諸国に対し、ユナニ医学を主流医学・正統医学とするイスラム文化圏では、健康観や医療観が明らかに異なっている。

だがこれは宗教の違いによるものではない。なぜなら、キリスト教徒の多いエチオピア、ルワンダ、ウガンダ、ヴードゥー教徒の多いベナン、ヒンドゥー教徒の多いインド、多宗教のタンザニアなど(図1参照)、宗教にかかわらず世界の60~90%の国々が伝統医学をプライマリケアとして利用しているからだ。

図1.発展途上国の伝統医学利用率と先進国のCAM利用率


WHOによると、伝統医学の利用率が高いのは発展途上国だとされているが、実際には先進国でも伝統医学を含むCAMの利用率は高く(図1参照)、主流医学・正統医学のカテゴリーにCAMを加えている国さえある(表1参照)。

表1.国により異なるCAMの捉え方

アメリカ
イギリス
ドイツ フランス 日本 中国 韓国 インドと
近隣諸国
漢方医学
中医学
韓医学
CAM CAM CAM 正統医学(ただし正式に教える医学部はない) 正統医学 正統医学 CAM
ハーブ医学
植物療法
CAM 正統医学 正統医学 CAM CAM CAM CAM
鍼灸
推拿
CAM(一部の州では公的資格) 一部正統医学 CAM 一部保険で認可されているがCAM 正統医学 正統医学 CAM
カイロプラクティック・オステオパシー アメリカでは公的資格 CAM CAM CAM CAM CAM CAM
アーユルヴェーダ・ユナニ医学・ヨーガ CAM CAM CAM CAM CAM CAM 正統医学
アロマセラピー CAM CAM CAM CAM CAM CAM CAM
タラソセラピー CAM 正統医学 正統医学 CAM CAM CAM CAM
ナチュロパシー アメリカでは公的資格 正統医学 正統医学 CAM CAM CAM CAM
サプリメント CAM 一部薬として認可 CAM CAM CAM CAM CAM

(上馬塲和夫,代替医療&統合医療イエローページ,2005より改変)


こうしてみると、「主流医学・正統医学のカテゴリーに含まれない医療」というCAMの定義にはいささか疑問が残る。国によって主流医学・正統医学が違う以上、それを基準にするのはいかがなものだろう。あえて私見を述べることを許してもらうなら、筆者は現代医学もCAMも区別すべきでないと考えている。

現代医学が人類に多大なる貢献をしたのは紛れもない事実である。しかし、1800年代初頭に現代医学が登場するまでの間、人々の健康を守り続けてきたのは伝統医学だった。たかだか200年あまりの歴史しかない現代医学に比べれば、紀元前の昔から存在する伝統医学の方がはるかに格上といえる。

もちろん、エビデンスが不足しているという批判は免れないが、それは現代医学とて同様である。サイエンスを基盤に発達してきたはずの現代医学といえども、EBMという概念の登場によってほんの僅かなエビデンスしかないことが次々と明らかにされている。

そもそも両者の目的は、人々の健康を守るという点で共通している。利用者の観点からすれば、健康を取り戻せるなら手段や方法は問わないというのが本音ではないだろうか。

医学の父ヒポクラテスが「人生は短く、技芸(アート)は長い。機会は逸しやすく、経験は欺き、判断は難しい」と述べているように、人間を相手にしている医学は不確実性の高い分野である。重要なのは、サイエンスとアートのバランスをとりながら確実性を高めていくことであって、医学を分類することではない。

CAMの利用状況

アイゼンバーグらの調査によると、アメリカにおけるCAMの利用者は年々増加しているようである(表2・3参照)。中でも興味深いのは、もっとも頻繁にCAMを利用しているのは25歳~49歳の白人で学歴の高い高額所得者であること、年間受診回数はプライマリケアが3億8600万回なのに対してCAMは6億2900回であること、CAMに支払った金額は全米のすべての医療サービスに患者が支払った金額とほぼ同額の270億ドル(約4兆円)に達することである。

表2.アメリカで利用頻度の高いCAM

CAMの種類 1990年(%) 1997年(%)
リラクセーション(75%が瞑想) 13.1 16.3
ハーブ療法 2.5 12.1
マッサージ 6.9 11.1
カイロプラクティック 10.1 11.0
アピリチュアルヒーリング 4.2 7.0
メガビタミン療法(大量のビタミン剤) 2.4 5.5
自助グループ 2.3 4.8
イメージ療法 4.2 4.5
栄養補助食品(サプリメント) 3.9 4.4
民間療法 0.2 4.2
ライフスタイルダイエット 3.6 4.0
エネルギー療法(主に磁気や磁力を利用) 1.3 3.8
ホメオパシー 0.7 3.4
催眠療法 0.9 1.2
バイオフィードバック 1.0 1.0
鍼治療 0.4 1.0
過去1年間におけるCAMの利用者率 33.8 42.1

(Eisenberg DM.et al,JAMA,1998より改変)

表3.アメリカにおける病態別CAM 利用状況

病 態 1990年(%) 1997年(%) 1997年の調査でもっとも利用頻度の高かったCAM
背腰痛 36.1 58.8 カイロプラクティック、マッサージ
アレルギー 15.7 28.0 ハーブ療法、リラクセーション
疲労 51.6 リラクセーション、マッサージ
関節炎 23.8 38.5 リラクセーション、カイロプラクティック
頭痛 31.8 42.0 リラクセーション、カイロプラクティック
頚部障害 66.8 カイロプラクティック、マッサージ
高血圧 11.6 11.9 メガビタミン療法、リラクセーション
捻挫・筋違い 24.7 29.4 カイロプラクティック、リラクセーション
不眠 19.8 48.4 リラクセーション、ハーブ療法
肺疾患 11.1 17.9 リラクセーション、スピリチュアルヒーリング、ハーブ療法
皮膚疾患 6.9 6.8 イメージ療法、エネルギー療法
消化器疾患 15.3 34.1 リラクセーション、ハーブ療法
抑うつ状態 35.2 40.9 リラクセーション、スピリチュアルヒーリング
不安 45.4 42.7 リラクセーション、スピリチュアルヒーリング

※数字は過去1年間に医師を受診した患者のうちCAMも併用した割合
(Eisenberg DM.et al,JAMA,1998より改変)


(次号につづく)

代替医療通信, 第6号, 2007.

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