補完・代替医療総覧(4)
連載4
―補完・代替医療総覧ー
患者の問いに答えるために
長谷川 淳史 (TMSジャパン代表)
全人的アプローチを掲げる補完・代替医療の世界的潮流と未来、そこに垣間見える光と影を探る。
CAMの利用状況
一方、蒲原らが行なった東京医科大学における調査によると、わが国の過去1年間におけるCAMの利用者率は65.6%で、アメリカの42.1%を大きく上回っており、その種類・内容は栄養補助食品(サプリメント)をはじめとして多岐にわたっている(表1参照)。またアイゼンバーグらは、72%がCAMを利用している事実を主治医に伝えていないと報告し、わが国でも79%が主治医に伏せていたということも特筆できよう。
表1.日本におけるCAMの利用状況
CAMの種類 |
過去1年間の利用者率(%) |
栄養補助食品(サプリメント) |
42.0 |
マッサージ |
31.2 |
リフレクソロジー(足裏マッサージ) |
20.2 |
アロマセラピー |
14.6 |
指圧 |
13.2 |
ハーブ療法(西洋の薬草) |
12.3 |
漢方薬(市販薬) |
10.2 |
整体 |
8.8 |
鍼灸 |
7.5 |
温泉療法 |
5.3 |
電圧・磁気療法 |
5.2 |
カイロプラクティック |
3.2 |
ヨーガ |
2.4 |
気功 |
1.5 |
(蒲原聖可,代替医療,2002より改変)
先進諸国の平均寿命がここまで延長したのは、乳幼児の死亡率が激減したと同時に、結核、肺炎、気管支炎といった感染症による死亡率が減少したためである。この事実は、現代医学が人類に与えた最大の功績といっても過言ではない。それにもかかわらず、なぜこれだけの人々が主治医に隠してまでCAMを利用するのだろうか。
ペルティエらの調査によると、人々は表2に挙げた理由でCAMを利用していると報告している。そしてCAMに対する満足度は、現代医学よりも高いことが明らかにされている。特に、腰痛や肥満、不安、うつ病、不眠に対する治療効果は、現代医学に比べるとCAMの方がより優れていると患者たちは感じているという。
表2.CAMを利用する主な理由
◆現代医学による治療に満足できない。
◆現代医学は患者を機械のように扱い、感情や心情を持った人として使っていないという意識。
◆異なる文化圏にさまざまな医療が存在することに気づいた。
◆病気の発生には栄養や感情、ライフスタイルが関与していることが明らかになってきた。
◆単に病気ではないというのではなく、ウェルネスへの期待や願望。
◆服用する医薬品を少なくして副作用をできるだけ減らすため。
◆医療費負担を減らすため。
◆著名な医師がCAMを支持するようになったため。 |
(Pelletier KR.et al,Am J Health Promot,1997)
近年、高齢化社会を迎えた先進諸国では、生活習慣病(がん、脳卒中、心臓病、高血圧、糖尿病など)や慢性疾患(不眠、うつ病、腰痛、頭痛、不定愁訴、認知症など)の増加という新たな問題が浮上している。そこで人々は、ただ単に長生きするというだけではなく、元気で活動的な日常生活を過ごせる期間、すなわち「健康寿命」を延ばしたいと考え、これまで以上に健康や医療に対して強い関心を寄せるようになった。
こうした状況を考えれば、先進国といえども現代医学だけに頼るのではなく、有効ならCAMも利用しようと思う気持ちはよく理解できる。それに加えて情報化社会といわれる昨今である。CAMに関する情報はこれでもかというほど溢れ返っている。CAMの利用者が増えるのも当然かもしれない。しかしだからといってそうした情報をすべて鵜呑みにしたり、何ひとつ効果のない有害なCAMに大金をつぎ込んだりすることは避けるべきだろう。
そこで次回からは、さまざまなCAMに焦点を当て、それらの有効性や安全性、費用対効果などについて探ってみたい。
参考文献&ウェブサイト
1) WHO Policy Perspectives on Medicines. Traditional Medicine 2002.
2) Fisher P & Ward A,Complementary medicine in Europe,BMJ,309,p107-111,1994.
3) 上馬塲和夫『代替医療&統合医療イエローページ』河出書房新社,2005.
4) 中川米造『医学の不確実性』日本評論社,1996.
5) Eisenberg DM.et al,Unconventional medicine in the United States. Prevalence,
costs, and patterns of use,N Engl J Med,328,p246-252,1993.
6) Eisenberg DM.et al,Trends in alternative medicine use in the United States,
1990-1997: results of a follow-up national survey,JAMA,280,1569-1575,1998.
7) 蒲原聖可『代替医療』中央公論新社,2002.
8) Pelletier KR.et al,Current trends in the integration and reimbursement
of complementary and alternative medicine by managed care, insurance carriers,
and hospital providers,Am J Health Promot,12,p112-122,1997.
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代替医療通信, 第7号, 2007.
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