腰痛治療最前線―TMSジャパン公式サイト-図書室



補完・代替医療総覧(14)

連載14


―補完・代替医療総覧ー
患者の問いに答えるために


長谷川 淳史 (TMSジャパン代表)


全人的アプローチを掲げる補完・代替医療の世界的潮流と未来、そこに垣間見える光と影を探る。


アガリスクの費用対効果

アガリクス自体は1万円ほどから出回っているようだが、サプリメントとして商品化されたものの大部分は1ヶ月分10万円、あるいはそれ以上の価格で販売されている。有効性を示す根拠がまったくないにも関わらず、350億円市場を築くまで 飛ぶように売れたのは、典型的なバイブル商法だったからである。

1994 年に発刊された『1日5グラムこの茸を飲んでいればガンは怖くない』を筆頭に、これまで『即効性アガリクスで末期ガン消滅!』『証明された!ガンに克つアガリクス茸の驚異』『ガンが消えた!治った! 101 人の証言』『ガン・「飲んだ、効いた、助かった!」』『なぜ、アガリクスはガンに一番効くのか』『ガン臨床医も実証した「超吸収アガリクス」の威力』『ガンが消えた!臨床医の証言』などといった書籍が 120冊近く出版されている。

これだけの書籍点数に加えてマスコミ広告で大々的にキャンペーンを展開されれば、アガリクスはがんに効果があると考えても当然だろう。サプリメントに懐疑的な者でも心を動かされるのではないだろうか。いわんや、藁をもすがりたい思いのがん患者においてをやだ。

しかし、東京国税局は 2002 年1月、書籍を利用してアガリクスの売り上げを伸ばしていた健康補助食品販売会社を脱税容疑で告発し、経営者らが実刑判決を受けることになる。さらに 2005 年5月には、警視庁が書籍でアガリクスを宣伝していた複数の出版社と健康補助食品販売会社を家宅捜索し、薬事法違反(未承認医薬品の広告・販売)容疑で6人を逮捕した。

この一連の事件で明らかになったのは、書籍の内容にある体験談はすべて、1冊 60万~ 70 万円の報酬で執筆したフリーライターが、図書館などで調べた症例を参考にでっち上げた架空のものだったことである。また、 監修にあたった東海大名誉教授も「薬学やがん治療については門外漢」と認め、「表現や語句をチェックしただけで、データや証言内容の真偽は確認しなかった」と述べているから驚きだ。

われわれはこの事件を教訓にすべきである。いくらプラシーボ効果が期待できるとはいえ、有効性が証明されていないものに大金をつぎ込むのは馬鹿げている。もし本当にアガリクスに抗がん作用があるのなら、大手製薬会社が黙っているはずがない。特許を取ってしまえば3兆円規模の抗がん剤市場を独占できるからだ。

これは何もアガリクスに限ったことではない。店頭やインターネットでは、即効性や過剰な効果を謳った根拠のないサプリメントで溢れかえっている。抗酸化ビタミン剤の有害性が徐々に明らかになりつつある今日、水にでさえ致死量があることを常に念頭に置き、インパクトのあるキャッチコピーや誇大広告に飛びつくことなく慎重に判断しなければならない。


参考文献&ウェヴサイト

1) Liu Y et al, Immunomodulating activity of Agaricus brasiliensis KA21 in mice and in human volunteers, eCAM Advance Access Published online on April 12,2007.
2) 恩地森一ほか, 民間薬および健康食品による薬物性肝機能障害の調査, 肝臓,46,p142-148,2005.
3) 内藤裕史『健康食品中毒百科』丸善株式会社, 2007.
4) 田端節子ほか,健康食品に含まれる化学物質の実態調査―アガリクスについて―,東京衛研年報,53,p101-107,2002.
5) Mukai H et al,An alternative medicine, Agaricus blazei, may have induced severe hepatic dysfunction in cancer patients, Jpn J Clin Oncol,36(12),p808-810,2006.
6) 国立健康・栄養研究所
7) 小島真樹ほか,健康食品であるアガリクスで肝機能障害を呈した1例,肝臓,43 suppl(2),A535,2002.
8) 佐々木望ほか,健康食品アガリクス茸により肝機能障害を来した1例,第 79 回日本消化器学会九州支部例会, 2002.
9) Horiuchi Y,Exudative papules due to Agaricus Mushroom extracts,J Dernatol,29,p244-245,2002.
10) 山田利恵ほか,アガリクスによる scratch dermatitis の1例,日皮会誌, 113,p1142,2003 .
11) 本多宣裕ほか,アガリクスによる薬剤性肺炎の1例,日胸,62,p1027-1031,2003 .
12) 春日照彦ほか,健康食品アガリクスによると思われる肝機能障害を呈した胃がん術後患者の1例,日本臨床外科学会雑誌,64,p1802,2003.
13) 陳啓盛ほか,肺がん切除肺の組織学的検索が契機となり診断しえた健康食品による薬剤性肺炎の1例,肺がん,44,p167-171,2004.
14) 清水省吾ほか,民間薬 / 健康食品服用中に生じた急性肝障害の3例,日本消化器病学会雑誌,102 suppl,A347,2005.
15) 吉野公二ほか,血中5 - S - CD値の上昇がアガリクス摂取によると考えられた悪性黒色腫の1例,臨皮,59,p1013-1015,2005.
16) 代替医療問題取材チーム『免疫信仰は危ない!』南々社, 2004.


代替医療通信, 第17号, 2007.

トップへ戻る.




Copyright © 2000-2011 by TMS JAPAN. All rights reserved.