教えてください!!
TMSジャパン・メソッドとはどのようなものですか。
また、その効果と適応疾患を教えてください。
TMSジャパン・メソッドを一言で表現するなら、世界最新の腰痛診療ガイドラインの勧告に則した腰痛治療セミナーといえます。具体的には、科学的に有効性が証明された診断法と治療法に基づき、多様性のある個々の患者に最善の医療(オーダーメイド・メディシン)を提供するためのサイエンス(科学的根拠)とアート(患者の価値観・患者の状況・臨床技能)を統合させた教育プログラムです。
腰痛や坐骨神経痛を訴える腰痛疾患には、主に3つの大きな問題が存在するといわれています。まず、腰痛疾患の発症率・再発率・慢性化率が高い。次に、腰痛疾患にかかる医療費の高騰と経済損失額の増大。そして、不適切な診断と治療の横行です。
つい最近まで我々は、治癒率と満足度が低く、再発率と医療費の高い治療を行なってきました。たとえば、不必要な画像検査、壊れた部品仮説の押し付け、生体力学的モデルに基づく説明などが代表的なものですが、とりわけ急性期における安静臥床や運動療法、慢性期における腰部牽引や固いマットレスの使用は、効果がないどころかむしろ有害であることが判明しています。
我々はなぜ、ベネフィット(利益)よりリスク(害)のほうが上回り、しかも費用対効果の低い治療を行なってきたのでしょう。それは長く受け継がれてきた慣習や古い教科書から学んだ視野の狭い医学モデルを信じてきたからであり、バイアスにまみれた権威者の意見やマスメディア情報を鵜呑みにしてきたからです。腰痛の原因は直立二足歩行による過重な負担が腰を傷つけたため、あるいは歳老いて腰が劣化したためだという考え方がそのよい例です。
ところが1991年、医学界にEBM(Evidence-Based Medicine:根拠に基づく医療)という概念が登場し、世界各国が腰痛診療ガイドラインを作成するようになって状況は一変しました。世界中で発表されているすべてのランダム化比較試験を吟味することで、「目の前にいる個々の患者に対し」「どんな介入をすると」「ほかの方法と比較して」「結果にどれほどの差があるのか」が明らかとなり、有効で安全な治療法と無効で危険な治療法を見分けられるようになったのです。
それと同時に、これまでの「生物学的(物理的・構造的)損傷」という機械的なモデルから脱却し、さまざまな要因によって生じる「生物・心理・社会的疼痛症候群」として腰痛疾患を捉えるようになりました。これがいわゆる「腰痛概念の劇的な転換」です。
この医学史に残るような革命ともいえるプロセスにおいて、新たに浮上してきたのが患者教育の重要性です。腰痛にまつわる時代遅れの常識や迷信を捨て去り、腰痛に対して抱いている態度と信念を根本的に改めることによって、臨床転帰の改善がみられるという事実が確認されたのです。
たとえば、腰痛によって長期欠勤している患者を対象に、新たな腰痛概念に基づく教育プログラム群と標準的治療群に割り付け、3年間にわたって追跡調査した結果、前者の職場復帰率は70%だったのに対し、後者は40%でしかなかったという報告があります。
また、慢性腰痛患者を対象に、セルフケア対策に関する読書療法の効果を18ヶ月間にわたって追跡した研究では、読了後1週間で52%の患者が改善し、9ヶ月後、18ヶ月後もさらに腰痛が改善し続けたといいます。
さらに、オーストラリアのビクトリア州では、ゴールデンタイムでのテレビCM、ラジオCM、新聞や雑誌の広告、屋外看板広告、小冊子、ポスターなどを駆使して、新たな腰痛概念を伝えるメディアキャンペーンを実施したところ、腰痛による欠勤、障害保険請求、医療費の大幅な削減に成功しています。こうしたメディアキャンペーンは、イギリスのスコットランド、ノルウェーのヴェストフォル県とアウスト・アグデル県、そしてカナダのアルバータ州でも実施されており、それぞれ素晴らしい成果を収めているのです。
腰痛患者を扱うプロである以上、我々はもはや腰痛診療ガイドラインの勧告を知らないとはいえません。なぜなら、従来の治療より治癒率と満足度が向上し、再発率と医療費を抑えられる方法があるにもかかわらず、それを使わないのは怠慢の謗りを免れないからです。
TMSジャパン・メソッドは、2004年に発表されたヨーロッパガイドライン、2007年に発表されたアメリカ内科学会とアメリカ疼痛学会のガイドライン、2009年に発表されたアメリカ疼痛学会のガイドラインの各勧告と、腰痛疾患の予後を左右するイエローフラッグ(心理社会的危険因子)を取り除く方法を統合した実践的治療プログラムです。ぜひ参考にしていただければと思います。
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FIND プライス 2011年1月号
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